小児のカイロプラクティックより(妊娠第3期)

2019/03/02

母体の発達
 妊娠第3期の3ヶ月間、子宮基底部は胸骨剣状突起の下にまで急速に膨張する。プロゲステロン循環量の増加に伴う子宮の膨満によって、しばしば母体の消化不良や胸焼けが生じるかもしれない。更に子宮が横隔膜と肋骨を圧迫する事によって、母親は呼吸困難、あるいは胸椎や肋骨の不快感に耐えなければならないかもしれない。腹圧の上昇、下肢からの静脈血の戻りの減退、血液が循環している脈管壁を弛緩させるプロスタグランジン効果の抑制によって、しばしば両下肢の静脈の静脈瘤、痔疾、そして両足首の浮腫が現れる。
 この妊娠期間中の母体体重の増加も非常に重要である。この母体体重の増加は、腰仙椎が密かに生体力学的な危険に曝される事の大きな原因である。母親の体重支持状態が劇的に変化する事で、骨盤の筋骨格系機能、特に仙腸関節や股関節の機能は危うくなる。しばしばこれは、(筋や血管の)緊張亢進や靭帯の弛緩のような重大な軟部組織構造の変化へと至る。そしてそれは順次、生体力学的な不安定性を生じさせる。単に腰仙椎だけでなく、代償的に、胸椎や頸椎にさえ、分節の異常な動きと全体的な異常な動きが様々に組み合わされた状態が生じる。妊娠後期に不幸にも仙骨彎曲の半径が特徴的に短いと、胸椎の過剰後彎や頸椎の後彎が生じる。椎間孔の解剖学的な柔軟性の他に、細胞の浮腫や炎症によって、細胞と凝集した組織の結果的な機能異常を伴う重要な脊髄神経組織の神経病理生理学的な状態が生じる。かいつまんで言うと、妊娠した患者の広範な椎骨サブラクセーション複合体は、生理学的に妊娠後期の3ヶ月に固有のものである。
 妊娠中の腰痛の有病率は、一般的に42.5%から、上は90%の人にみる事ができる。妊娠中の最も一般的な原因は仙腸関節炎である。妊娠中の仙腸関節炎の病因の主要メカニズムは、レラキシンの循環と、骨盤関節でレラキシンの結果生じる影響である。
 ManteroとChrispiniは、20人の妊婦に関するレントゲン撮影による、あるいはレントゲン線骨盤測定による研究によって、妊娠期間中に観察される腰仙部の構造的な変化は、骨盤の傾きの変化、仙骨から大腿骨までの測定値の変化、仙骨の傾きの変化、腰椎の過剰前彎、そして仙骨上での L5の後方変位から成り立っている事を発見した。彼らは、症状を解決するには、上記のような変化を矯正するためには、予防の為の、あるいは治療のための摂生が必要であったと結論した。この結果としての彼らの治療目的は、腹部の筋の緊張を回復させ、ある時期にみられる子宮脱や尿失禁のような障害を予防するために子宮脱の緊張を改善させ、下肢の静脈循環の変化を回避させ、変化した姿勢を正す事にある。彼らは、自身の研究の主要な関心事が骨構造の力学的な位置であると言及していた。。そしてその骨構造は重力に由来する様々なストレスを受けている。更に彼らは、姿勢の変化による力学的な変化が、関節の動きに関する機能的な変化を生じさせる事があり、そして正常で生理学的な変化が、関節の動きに関する機能的な変化を生じさせる事があり、そして正常で生理学的な関節機能における変化が矯正されないと、神経的に関連する脊椎領域の局所的、あるいは反射的な疼痛症状が生じる大きな原因の1つとなる。そして遅かれ早かれ、それらが最小的に関節の変化になる。妊娠によって引き起こされたこれらの状態のカイロプラクティック治療に関する精査の後で、彼らは、カイロプラクティックは〝妊娠による力学的な変化によってもたらされる疼痛性の脊椎症候学のためには、群を抜いて最も必要とされる治療である”という結論を下した。
 妊娠中の腰痛に関与しているとして確認された幾つかの変数には、母体体重の増加、胎児の重量、これまでの妊娠の回数、これまでに産んだ子供の数がある。

胎児の発達
 妊娠第3期になると、胎児は最も急激な成長を見せる。胎児の頭部は身体に比例して著しく大きくなり、頭部上に頭髪が生え、まつ毛や眉毛も識別できる。この妊娠後期の3ヶ月の間に目鼻立ちの細かな区別がつくようになる、そして脂肪が皮下に沈着し、皮膚には独特の皺が出現し、乳歯の歯蕾の後に永久歯の歯蕾が現れ、眼から瞳孔膜が消え、指の爪が指先に達し、産毛(胎児の身体を覆っている細く、柔らかい毛)が消え始める。
 この時期に胎児は、目が覚めている状態と眠っている状態を經驗し、強い光に反応するようになる。大きな音が、子宮内の反応を誘発するかもしれない。児の聴覚は急速に発達し、母体の音に敏感に反応するようになる、そして出生後すぐに他人の声よりも母親の声の方を明確に好む徴候が見られる。超音波検査を行うと、胎児が繰り返し母指を吸う事ができるのが見られるが、これを練習する事で、出生後の生存が確実になるだろう。母親だけが判る一連のリズミカルな揺するような動きは、胎児の吃逆(しゃっくり)である。胎児の成長と体重増加は続いているので、活動するには場所が狭くて動きは制限されるが、胎児の四肢は精力的に動く。この妊娠第3期の間に胎児の体重は、約3.5ポンド(約1587g)増加し、身長はだいたい5.6インチ(約14cm)伸びる。
 出産日の時期に近づいていれば、胎児が生存し、独立した生命に容易に移行できる事も多いが、この3ヶ月間で誕生であれば生存できる可能性は高い。妊娠後期には、胎盤を通して胎児へと抗体が送られる。そして母親が免疫を持っている疾患に対して短期間の抵抗性が生まれる。この抵抗性を少ししか受け取らなかった早産の新生児は、伝染性疾患に罹患し易い。
 妊娠後期の3ヶ月中の早期には、胎児は、時々子宮内でお気に入りの肢位をとるようになるが、通常それは頭部を下にしたもので、頭位として知られている。第3期では、産科学的に最も重要な胎児の構成部分は頭部である。頭位には、胎児の先進部の中で最善のもので、この胎位なら子宮内が最も広くなり、圧迫も最小限になる。この胎位は、分娩の96%に見られる。頭位出産で頭部が娩出されれば、手間取る事も少なく、児を安全に分娩する事も容易になる。

胎児の頭蓋
 頭蓋骨の頭蓋アーチは、幾つかの骨から成っている。胎生学的には7つの重要な骨があり、それらは前頭骨、頭頂骨、側頭骨、後頭骨と名付けられている。それらの骨は、それらの骨の間に膜組織を持っ縫合によって結合している。その縫合によって、胎児が産道を通って下降する際の頭蓋成形が可能になる。そして経腟的に胎児の頭部確認するのに役立つ、欠く事のできない構造である。出生時の頭蓋骨は、あまり骨化してはいなくて、薄いもので、胎児の頭部が(産道を)通過するために圧縮され易くなっている。胎児が産道を通って下降する際に、これらの骨が重なるのは、頭蓋骨の結合が弱いので可能となっている。その後、胎児の頭部は、母体の骨盤に合うように、その形を適合させる。
 その縫合とは、両頭頂骨の間にある矢状縫合と呼ばれていて、ラムダ縫合(三角縫合)は、頭頂骨と後頭骨を分けている、そして冠状縫合は前頭骨と頭頂骨の間にあり、前頭縫合は両前頭骨の間にある。前頭縫合は、矢状縫合から続いているものである。
 泉門は、頭蓋縫合の膜性の交点である。また前泉門はブレグマとも言われていて、前頭縫合、冠状縫合、矢状縫合の交点である。それは、大体2×3インチの大きさで、ダイヤモンド型と形容される事がとても多い。この泉門は、出生後18週までに完全に骨化する。この泉門の重要な機能は、娩出中の頭蓋成形を助長する事であり、出生後のその責務は、急速な脳の発達に適応する事である。
 後泉門(小泉門)はラムダとも言われ、ラムダ縫合と矢状縫合の交点に位置している。これは前方の泉門よりもかなり小さく、矢状縫合が根元で、ラムダ縫合が両腕に相当する "Y"の字の形をしている。この縫合は、8週までに最終的に骨化する。頭蓋底を構成している骨は欠く事のできない脳幹の中心部を保護しているので、容易には圧縮されない。

胎児と骨盤の関連性
 妊娠中と出産に関連した胎児と骨盤の関係を記述する上での言葉は、カイロプラクターが子宮内での圧迫と出生時外傷の双方を知り、理解する上で非常に重要なものである。それらは以下のような特徴があり、表5.4に示されている。

表5.4.胎児の位置にょる胎児と骨盤の関係
胎位            姿勢          先露部位       基準
縦位(99.5%)
頭位(96~97%)       屈曲          頭頂部(後部)    後頭骨(O)
              ミリタリー       頭頂部(中間部)   後頭骨(O)
              不完全伸展       前額部        前頭部(前頭骨)(Fr)
              完全伸展        顔面         下顎(頤)(M)

骨盤位(3~4%)
 完全な          股・膝関節屈曲     臀部         仙骨(S)
 明白な          股関節屈曲       臀部         仙骨(S)
              膝関節伸展       
蹴る、片足、両足      股関節伸展       膝          仙骨(S)
              膝関節屈曲
膝を突き出す        股関節伸展       膝          仙骨(S)
片膝、両膝
横位あるいは斜位(0.5%)
肩甲位           様々          肩、腕、体幹     肩甲骨(Sc) 

 胎児の方向は、母体長軸と胎児長軸との関係として描写され、その際には母親は立位に成っている。母体長軸と胎児長軸との関係として描写され、その際には母親は立位になっている。2つの簡潔な胎生学的な方向というものがある。第1のものは縦位とされるもので、母親と胎児の長軸は平行である。第2のものは横位あるいは斜位とされるもので、それは、胎児の長軸が母親の長軸に対して直角か斜めになっている時とされている。斜位では胎児と母体の軸の角度が45°になっているので、(胎児は)絶えず動いていて安定していない。その不安定性のために、斜位は、出産中には常に縦位か横位になる。縦位は、臨月の妊娠の約 95% に見られる。
 縦軸位は、更に頭位と骨盤位に分類される。頭位と頭部が子宮頸部にあるもので縦位の96~97%にみられる。骨盤位とは下肢や臀部が子宮頸部にあるものの総称で、縦位の3~4%に生じる。それ故、胎位とは、骨盤入口に最も近い胎児の部位を表している。肩甲位は横位を表していて、肩が先進したものである。
 先露部位とは、産道に最も近い胎児の解剖学的な部位である。これは、指を用いる経腟あるいは経直腸の検査の際に最初に触れる部位を表している。
 胎児の姿勢は、胎児の部位との御互いの関係に適合している。主な姿勢は、屈曲と伸展である。胎児の頭部が屈曲すると、下顎は前胸部に近づき、両腕と両下肢は身体の前面に集まっている。脊柱は、僅かに前方に屈曲するだろう。これは凸状の脊柱を表している。胎児の頭部が屈曲も伸展もしていない中間位は、ミリタリー姿勢と呼ばれている。この姿勢が最善であるとされている訳ではなく、出産の過程を遅延させたり、混乱させる事がある。胎児の頭部がより伸展し首の後方に位置すると、顎位あるいは顔位が明らかになるが、それは伸展の角度に依る。顔位の結果として、胎児の姿勢の進行性の変化によって、胎児の脊柱は窪んだ外形を呈するようになる。
 命名者は、胎児の先露部位上の任意に選んだランドマークについて詳細に述べている。その基準は、胎児の位置を表す助けになる。全ての胎位には独自の基準がある。その位置は、産道の右側あるいは左側の基準との関係と関連している。それ故、各々の胎位に伴って、右あるいは左を表す位置があるのかもしれない。

妊娠第3期の検査
腹部の視診と触診
 子宮内での圧迫を明らかにする手助けとなるので、カイロプラクターは、腹部の視診と触診に徹底的に精通するべきである。殆どのカイロプラクティック・ドクターが驚くべき精緻な触診を実践し、且つそれに熟達しているので、これを習得するのは、あまり難しい事ではない。
 正確に判定するために、胎児の位置を正しく反映しているような幾つかの目立った点について考えながら、母親の腹部を視診、触診する事によって、子宮内での胎児の位置が明らかになる。
 主として、縦位、横位、斜位のどの方向かについて決定する。この認識の結果として、骨盤入口、あるいは骨盤入口内に先露する胎児の部位を判定する。それから胎児の脊柱や四肢に付随する小さな部位について判定する。先露部位が明らかになったならば、子宮基底部を占有している構造についても触診し、分類できる。このステップを踏む事で、子宮基底部の高さも算定できる。この時点で、頭部の突出部のある側が判る。
 その上に、進入機序(産科において、胎児の大横径が骨盤入口平面に入る機序)が生じているかどうかを検討する事、そして恐らくは児の大きさを算定する事も価値がある。妊娠第3期の患者を検査するために、彼女に腹部を露出させて仰臥位になるように指導するべきである。腹壁筋の弛緩を促進させるために、肩を僅かに持ち上げて、両膝を曲げて上げられるように快適なサポートを行う。患者に陣痛があれば、子宮収縮の間隙に検査を行う事ができる。
 産科学上、胎位と胎児の位置を診断するために用いられる方法について、1つのメニューがある。これらは、以下の幾つかの組み合わせから成り立っている。それは膣の検査、聴診、胎児の心臓の位置、超音波画像あるいはレントゲン像、腹部の触診である。通常、産科医が胎位や胎児の位置を確かめるために、腹部の触診を専ら頼りにする事はない。経験豊富なカイロプラクターが腹部の触診を行えば、胎児の位置状態が容易に判るのである。胎児の腹部検査において用いられている一連の手技がある。
 始めの手技は、胎児の先露部位を決定しようとするものである。ドクターは、患者の横に立ち、下方手の母指と四指の間に優しく且つしっかりと子宮の下部を掴み、先露部位を触診する。それから上方手を子宮底部に当てて、子宮を安定させ、僅かに反対方向(下方)に圧を加える。胎児の頭部は最も確実に確認できる部位なので、先ず、この手技を行う事が最良である。頭部は、硬くて、丸くて、間違えようのない形としえ触診されるが、それが子宮基底部にある時には、球が浮いているような感じが容易に判る。時には溝のある構造として頸部が触診できるが、児お位置が奥深い事で、確認するのは困難かもしれない。通常、検査している指の中の1つを眉間に合わせ、他の指を外後頭隆起に合わせるのが簡単な方法である。こうすれば、検者が胎児の頭部を動かし易くなる。胎児の頭部は、骨盤腔の羊水の中に浮かんでいるので、胎児の頭部を骨盤腔の中で後方へと押す事もできる。胎児の頭部へのこのような圧を解放すると、頭部は元の位置へ持ち上がり、検者の手や指に接してくる。
 90%以上の妊娠で、胎児の頭部は骨盤の位置にあるいはその中にあるので、最初に行うべき合理的な事は、頭部が位置している事が最も多い場所(骨盤)でそれを探す事である。胎児の頭部が骨盤入口にある事が確認されたならば、2つの重要な事実が明らかになる。主として、胎児の方向が縦位である事、そして胎位が頭位である事である。
 頭部がまだ骨盤の外側にあるのか、浮いているのか、あるいは骨盤の中にあるのか、固定されているのか、進入機序が働いているのかを診るために、優しく頭部を端から端まで動かす手技を行ってみるべきである。
 第2の手技を処方する際には、上方の検査手で子宮基底部を触診ている間に、下方の検査手を先露部位に当てる。尻がこの場所にある事が非常に多く、その際は柔らかくて、平坦でない感じがあり、頭部ほど丸くなく、はっきりとしていない。尻は頭部のように簡単には動かない。そして脊柱が続いている。骨盤位であると決定しようとする際には、体部は尻とともに外方へと動く。蹴っている、続けざまにゲンコツで殴るというような胎児の動きを母親が描写してくれると、診断を確認する手助けになる。更にその上、尻の付近によく動く小さな部位を触診する事は、発見の手助けになる。
 2つの検査手を使った前述の触診によって縦位と認められた胎児構造の中での比較検討ができるので、このステップは当然重要である。一連の検査において、両手で子宮基底部か骨盤入口において、疑わしい部位を触診する。このプロセスは、先露部位について、はっきり確認する手助けになる。
 第3の手技は、胎児の脊柱の位置の確認である。これは、腹部のどちら側かに両手を当てると良い。一方の手で子宮を固定している間に、もう一方の手で胎児を感じられれば、最良である。
 胎児の脊柱は、硬く、滑らかで、幾分稜線があるように感じられる。それは、段階的な凸状のアーチで、母体の臍に向けて圧を加えると、触診している指に一定の抵抗が感じられる。
 反対側では、検査圧に対しての抵抗が一様ではなく、幾つかの部位では指がより深く進入する。動いている付属物を全て触診する事で、診断が容易になる。
 第4の手技には、頭部の突出部を探し出す腹部検査が含まれる。子宮の低くなっている側に手を当てて、指を下方へ向け、それらを恥骨に向けて優しく動かす事で、腹部を通して頭部の突出部を触診できる。頭部の突出部があった時は、そちら側では検査している指が突出部に接触するが、反対側では抵抗は殆ど無いか、全く無い。頭部の突出部を探す事で、胎児の姿勢の診断が容易になる。
 頭部の突出部は、頸部上で胎児の頭部を屈曲あるいは伸展させる事で生じる。頭部が十分に屈曲している時には、後頭骨は前上頭部よりも低くなる。そして前頭部が頭部の突出部として触れる。伸展させた時には、後頭骨は前上頭部よりも低くなり、後頭骨や後頭部が頭部の突出部として触れる。頭部の突出部と背中が反対側にある時には、その姿勢は屈曲と名付けられる。頭部の突出部と背中が同側にある時には、その姿勢は伸展のそれである。頭部の突出部が触れられない時には、屈曲も伸展もしていなくて、頭部は中間位にあり、ミリタリー姿勢と記述される。
 胎位は、胎児の心音を聴診する事で決定できるかもしれない。その際は、産科の胎児鏡を使うのが最善である。

子宮内圧迫と生体力学/サブラクセーションの根拠
 子宮内圧迫は、椎骨サブラクセーション複合体へと至るであろう胎児の生体力学的なストレスと関連しているので、出産前のカイロプラクティック治療の根拠を与えてくれる。この原則は、妊娠後期の3ヶ月中にみられる様々な胎児の胎位異常の中で周産期に関連したものについての知識に由来している、そして科学的な文献の中で説明された重要な証拠によって立証されている。
 妊娠7ヶ月までは、骨盤位や他のどんな子宮内の肢位であっても正常である。7ヶ月以降の第3期の間中、屈曲した姿勢での頭位以外の全ての肢位は、ある程度あるいはそれ以上に胎児を圧迫するものと考えられる。
 どんな生体力学的なストレスであれ、胎児の椎骨に加わる事があれば、軟骨や初期の関節構造の肥大といった異常な発育結果が生じるかもしれない、それ故、長期間の影響を持つ脊柱の左右非対称や椎骨サブラクセーション複合体の全長なのかもしれない。
 子宮内圧迫のより明白な病因学的な要素は、母体と胎児の決定要素に分類されるかもしれない。母体に関する将来の見通しから言うと、最も重要な要素は、狭骨盤である。これは、解剖学的に骨盤入口、骨盤中間部、骨盤出口にみられるかもしれない。この章の始めで議論したように、骨盤の経線や骨盤の基準面の計測値が平均より減少した場合、これらの部位の何処でも問題が生じるかもしれない。狭骨盤とともに病因学の数多くの以前からの要素が存在しているが、それらにはくる病、母体骨盤の骨や関節の発達不全、骨盤出口の部位での会陰部の強直、そしてカイロプラクターにとって最も重要なあらゆる程度の構造上か、機能上の骨盤の問題がある。この意識から、妊娠開始から妊娠した患者の脊柱を生体力学的に最善の状態に保ち、骨盤機能を維持するのがカイロプラクターの義務なのである。最終的な目標は、受胎と妊娠が生じるずっと前に、母となる患者に生体力学的に安定した骨盤と脊柱を獲得させる事である。
 子宮内の圧迫に影響する母体状態に関する他の要素は、子宮の異常、特に非妊角?(nonpregnant horn)が胎児の位置を偏らせているかもしれない二角を有する子宮におけるものである。これは骨盤位においては普通の触媒である。胎盤の位置あるいは大きさの異常は、好ましくない胎児の位置に関与しているのかもしれない、しばしば前置胎盤が関連因子になる。母体腹部の下垂が認められた時には、子宮や胎児が前方へ落ちる傾向が増し、位置的な変化が引き起こされる。
 胎児の決定因子には、胎児の過大、骨盤位や横位に認められるような胎児の極性における生まれつきの欠陥、異常な後頭骨の内旋、正常な屈曲をせずに伸展している胎児の姿勢、多胎妊娠、羊水量が過剰で胎児の自由な動きを妨げている羊水過多症、無脳症がある。
 幾つかの状況では、子宮内の圧迫は、仙骨サブラクセーション(変位による運動障害)によって引き起こされるかもしれない。仙骨サブラクセーションには幾つかの原因がある。それには、妊娠前からの母親の仙骨サブラクセーション、微小な或いは大きな外傷によって妊娠中にサブラクセーションが引き起こされる事、そして骨盤の奇形による障害がある。特に、仙骨の回転は、子宮の靭帯や筋組織に前方への捻れのメカニズムを生じさせ、(子宮内の)スペースを狭め、胎児環境を変えてしまう。それ故、胎児が自身で頭位になる事が期待される妊娠第3期では、好ましくない仙骨回転変位があると、子宮内圧迫が生じ、それが不可能になる。仙骨サブラクセーションの矯正が行われると、子宮構造とそれ故の子宮構造の機能が改善され、胎児が自身で適切な肢位をとる事が可能になる。骨盤位の際にみられる後方仙骨底でも、同様の事が言えるだろう。仙骨の角度が子宮に直角方向のストレスをかけ、この圧迫状態が生じる事になる。カイロプラクティック矯正、特に後方から前方、上方から下方へと弧を描くようなものは、子宮や胎児に生じている変位や運動制限によるストレスを正すものである。
 子宮内圧迫による危機的な影響によって、生体力学的に考慮すべき胎児の発育問題が複雑になり、酸素欠乏症、脳損傷、窒息、臍帯脱出、子宮内死亡の発生率が増し、出産における機能が低下し、長引く困難な出産に至る可能性が高まり、新生児が外傷を蒙る危険性が高い手術への志向性が大きく増す。過剰な頭蓋成形にも関係してくる。

骨盤位
 子宮内での胎児の最善の肢位は縦位で、これは屈曲した姿勢で先露部位が頭頂部となる頭位である。これ以外のどんな肢位でも、子宮内圧迫が生じる事がある。臀位あるいは骨盤位は縦方向であるが、両股関節と両膝の位置によって分類される。産科学の立場からは、骨盤位は4つに分類される。完全臀位(複臀位、臀両足位)は、胎児の両大腿と両膝が屈曲位を保っているもので、単臀位では両大腿は屈曲し、両膝は伸展している。3番目の骨盤位は足位で、先進部位が片足か両足である。この時は、両大腿と両膝は屈曲している。最後の、そして頻度が最も少ないものは膝位で、大腿の伸展と膝の屈曲が両側あるいは片側でみられるものである。この時は膝が先露部位である。
 骨盤位の際の胎児の定型的な姿勢は、頭部の過屈曲である。この骨盤位が短期間でも続くと、胎児の顔がどちら側かに90° 向いて、頭部の回転の偏りが増し、そのために耳が胸壁に近づく。この姿勢については Trillat が記述し、Gibbert が出生前のレントゲン写真上で観察した。この姿勢( Trillat姿勢)は、骨盤位の患者だけに観察されるものなので、胎児の頭部が母体の肋骨縁の下にきつく押し込められ、均整のとれた位置に頭部を納める事が困難になり、結果的に圧迫が生じるのが骨盤位であると、彼らは示唆している。Gibberd は、「もし、それが胎児自身に発生した力(即ち首の両側の筋活動の不均衡)によって生じたものだったら、骨盤位に押し込められているようには見えないだろう」と推定している。
 骨盤位での胎児の骨格の過伸展は、文献の中で上部頸髄神経や脳幹の部位を酷く傷つけるものとして広範囲にわたって報告されている。頸椎の過伸展とそれに付随して子宮内での頸椎の変位を伴った子宮内の骨盤位に関する独創的な記述については、順を追って話す。
  しばしば骨盤位の原因は、突発的なものである。判っている要因には、早産、羊水過多症、多胎妊娠、前置胎盤、狭骨盤、水頭症、線維筋腫がある。習慣性の骨盤位についても記述されている。このことに限って言えば、何人かの女性が全ての子供を骨盤位で分娩することになる。これは、骨盤の解剖学的構造によって、頭位よりも骨盤位になり易いものである。
 骨盤位では、時に患者は楽になった感じを味わうが、それは分娩前に胎児が児頭進入しているからで、稀である。患者は、下Ⅰ/4の下腹部に胎児の小さな部位の動きを感じる事が多く、直腸や膀胱を蹴られて疼痛を訴えるかもしれない。
 骨盤位は、全分娩の3~4%と算定されている。そして頭位よりも周産期の罹患率と死亡率は高い。
 臨産(正常分娩)が達成されれば、(骨盤位の)罹患率は減少するが、十分な臨産前に分娩する患者では、その罹患率は上昇する。骨盤位では約15%の新生児が臨産前に生まれる。
 子宮内圧迫の結果としての周産期の変形は斜頭蓋と呼ばれ、それは医学的には"頭蓋形状の奇異な歪み"と定義される。通常、この変形は後頭骨にみられ、後頭骨、環椎、軸椎に剪断変形が生じる素因となり、後頭顆の発育異常と不均衡に関係してくる。胎位の臨床的な徴候は、斜頭として観察される。斜頭は、早急なカイロプラクティックの手当によって難なく解決できる。
 過伸展した胎児の姿勢の当然の結果である顎位あるいは顔位は、カイロプラクターや産科医にとって緊急関心事である。生体力学的にそれは、圧縮型の障害を確定させうる伸展タイプの外傷を生じさせる。子宮内のこの肢位がどれくらいの期間であれ長引く事があると、頸椎上で後頭骨が様々な程度に無理やり進展させられてしまう。顔位は、500例の出生ごとに1件の割合で起きている。顎位の発生は、それよりは少ない。生体力学的に関連する部位は、頭顆の前上方への変位が非常に頻繁に生じる部位である後頭-環椎領域であることが最も多い。これは、むしろ頸椎の重度の過剰前彎による不安定性に伴って起きる。HelstromとSallmander は、この肢位の結果として"新生児の頸部へもたらされる耐え難いストレス"について述べている。
 胎児の長軸が母親の長軸に対して直角あるいは斜めになっている時には、胎児は横方向か斜めの方向を向いている。子宮壁から押し出されてしまうので、この不正肢位によって、頭部が無理矢理に頸椎上で過伸展させられ、顎位や顔位の姿勢が促進される。ここでは、斜頸の出現に関しては習慣性という証拠があるが、しばしば出生時に先天的斜頸と名付けられる事がある。その上にしばしば子宮頸部においては肩が先露部位なので、脊柱を捻り圧縮する事が、慢性的な胸椎や頸胸椎のフィクセーション複合体、あるいは胸鎖関節、胸肋関節の歪みへと至るかもしれない。

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