PAACニュース164号:ヒトの斜角筋組織の機能解剖学:頸椎の回旋

2018/11/01

                              Anthony B.Olinger,PhD、Philip Homier,BS 著

                                             訳:栗原輝久

概観
目的:斜角筋の作用には頸椎の屈曲と側屈、第1、第2肋骨の挙上がある。斜角筋の頸椎回旋特性については不明なままである。テキストや最近の研究報告は、斜角筋の頸椎回旋の特性について矛盾した所見を奉告している。現在の研究は、斜角筋が頸椎の回旋を生じさせるか否かを明らかにするために、力学的な取り組みを行うように設計されている。
方法:斜角筋を分離・切除して、耐久性のある縫合糸と置換した。この縫合糸を斜角筋の起始部に取り付けてから、停止部の中心部付近の孔を通過させた。斜角筋の肋骨停止部の孔を通して、この縫合糸を牽引して前・中・後の斜角筋の収縮を再現した。
結果:模擬の前・中・後斜角筋は、独自に、あるいは共同して働いて、同側の頸椎の回旋を生じさせた。再現された筋収縮に対して、上部頸椎は同側方向に回旋した。筋収縮の再現に対して、反対方向へと回旋した 2体の屍体を除くと、所見は下部頸椎のものと同様だった。
結論:斜角筋の実験モデルによって、頸椎の同側への回旋を生じさせる事ができる。今回の研究の所見は、斜角筋について一般に認められている主要な作用を支持している。斜角筋の頸椎回旋特性を理解するという臨床的適用には、胸郭出口症候群と同様に、頸椎痛状態の診断、管理、治療が含まれる。(J Manipulative Physiol Ther 2010;33:594-602)
鍵となる言葉:頸部の筋:筋骨格系マニピュレーション:生体力学:頸椎

      
 図1.頸部側面、前・中・後斜角筋の起始と停止が示     図2.頸部、斜角筋群を耐久性のある縫合糸で
 されている。A:写真、B:図解              置換し、斜角筋群の作用を再現するように設計
                              された実験モデルとした事が示されている。
                                            A:写真、B:図解

    
 図3.測定用電極を水平位にしている事が示されてい   図4.9体全部の標本では、前斜角筋の作用を再現する
 る。また斜角筋の作用を再現してはいない。      事で、その結果として上部の電極の前方への移動が見
 A:写真、B:図解                   られ、残りの2体の標本では、下部の電極の後方への
                           移動が見られた。A:写真、B:図解。

    
 図5.9体全部の標本において、中斜角筋の作用を再現   図6.9体全部の標本において、後斜角筋の作用を再現
 する事で、上部の電極の前方への移動が見られ、9体   する事で、上部の電極の前方への移動が生じ、9体の
 中の7体の標本では、下部の電極の前方への移動が見       標本の内の7体では前方への移動が、残りの2体の標本
 られ、残りの2体の標本では下部の電極の後方への移       では下部の電極の後方への移動が生じた。
 動が生じた。A:写真、B:図解。             A:写真、B:図解。

    
 図7.9体全部の標本において、前・中・後の全ての
 斜角筋の作用の再現とその結果としての上部の電極
 の前方への移動が、残りの2体の標本では下部の電極
 の前方への移動が、残りの2体の標本では下部の電極
 の後方への移動が生じた。A:写真、B:図解。

                                 (中略)

 臨床的適用
 ●斜角筋群の回旋機能を評価するために設計された力学的な試験用屍体モデルによって、上部頸椎の僅かな同側方向
  への回旋と下部頸椎の僅かな反対方向への回旋が生じた。
 ●同側方向と反対方向の両方へと頸椎を回旋させる事で、屍体で再現した斜角筋をストレッチする事ができる。
 ●斜角筋群の回旋特性に関して理解する事には、頸部痛や胸郭出口症候群の診断や治療への臨床的適用が含まれる。

 

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