PAACニュース151号:環椎の先天的奇形、診断上のジレンマ:症例報告

2018/10/19

                       Annemarie de Zoete,DC、Urusula A.Langeveld,MSc,DC 著

                                             訳:栗原輝久

概観
目的:この症例報告の目的は、環椎の前弓と後弓のジェファーソン骨折と先天的奇形との違いに関心を向けさせる事である。
臨床的特徴:42歳の女性は、頭痛、頸部痛、眩暈、両腕の痺れを訴えて来院した。これらの症状は、真っ直ぐに転落して、運動場に頭部を2回打ち付けてからのものだった。この転落の前には、このような症状は無かった。頸椎のレントゲン撮影の後、ジェファーソン骨折が疑われた。
治療と結果:コンピューター断層撮影と核磁気共鳴画像による精査によって、この患者にはジェファーソン骨折と非常に類似した先天的奇形がある事が判った。神経外科医によって頸椎の不安定性が除外されたので、カイロプラクティック治療が行われた。6回の治療後、愁訴は大幅に改善した。
結論:治療を開始する前に、頸椎の不安定性を除外するために、環椎の先天的奇形とジェファーソン骨折との違いに精通する事が重要である。(J Manipulative Physiol Ther 2007;30:62-64)
鍵となる言葉:カイロプラクティック:骨折:頸椎:骨折:骨:奇形

  
図1.最初の開口前後像、C1の両外側塊の大きな    図2.CT画像、C1の前弓と後弓の分離が見られる。
    外方への移動が示されている。

 環椎の先天的奇形は、一般的には非常に稀である。後弓の癒合不全は、全人口の4%に見られるのみで、前弓の癒合不全は0.1%である。通常、環椎前弓の癒合不全は、後弓の奇形と関連している。これらの癒合不全は、ジェファーソン骨折と非常に類似している事があるので、メディカル治療が必要な場合を知る事が重要である。カイロプラクターが徹底的な問診、身体検査、レントゲン撮影や画像精査の指示を行う事で、メディカル治療の根拠を確認できるはずである。今回の症例報告では、環椎の先天的奇形について詳述している。

症例報告
 42歳の女性がカイロプラクターのもとを訪れた。彼女は、頭痛と時に頸部へと広がる疼痛、立ちくらみ、視覚障害、時々の両腕の痺れを訴えていた。これらの症状は、7ヶ月前の転落J後から始まっていた。彼女は、運動場のトレッドミル(足踏み車)に乗っていた時に、真っ逆さまに転落して頭部を2度打ち付けた。転落の前には、彼女に症状は無かった。
 転落から数日後、彼女は、係り付けの医師から筋弛緩薬の注射を受けたが、症状は軽快しなかった。その開業医は、彼女を理学療法士に照会した。この理学療法士は、頸椎の回旋授動法テクニック、マッサージ、温熱療法による治療を行った。この治療でも症状は軽減せず、時には症状が増悪した。
 カイロプラクターは、身体検査の最中に頸部の動きが両側で著明に制限されている事に気づいた。伸展によって後頭下領域に刺す様な痛みが生じ、屈曲によって頸部に軽度の不快感が生じた。頸椎への長軸圧によって、強い頸部痛が生じた。頸部と肩甲帯の筋は、全体的に過緊張状態で過敏だった。神経学的・整形外科的検査では異常な診られなかった。
 前述の所見の結果から、カイロプラクターは頸椎のレントゲン撮影を決定した。レントゲン写真から、環椎の両外側塊が大きく外方へと移動している事が判った(図1)。後頭骨があたかも軸椎の上に載っているように見えた。更に頸椎の後彎、環椎歯突起間距離の延長、歯突起後方傾斜の可能性が明らかになった。
 C1のジェファーソン骨折や破裂骨折という診断が下された。病院への照会のために、彼女は係り付けの医師へと照会た。1週間後、病院で頸椎伸展位でのレントゲン撮影が行われた。結論は、彼女のC1前弓には先天的な形成不全があり、これは外傷によるものではないというものだった。2週間後にCTスキャン撮影が行われ、環椎前弓の分裂による先天的奇形があるという結論が下された(図2)。また治療を行ったカイロプラクターは後弓の癒合不全を疑っていたが、レントゲン像は、この判定とは一致しなかった。歯突起と前弓との間のスペース(環椎歯突起間距離)は通常よりも大きいようだった。
 上部頸椎複合体の不安定性の有無が明白では無かったので、カイロプラクティック治療が安全だとはみなされなかった。恐らく先天的奇形だったろうが、転落後に症状が始まった事、転落後にこの奇形が不安定性となったのかもしれなかった。彼女は、神経外科医へと照会された。この神経外科医は、頸椎の伸展位と屈曲位でのレントゲン撮影を指示した。これらのレントゲン像では不安定性は確認されなかった。環椎に外傷後の損傷は無かったので、先天的奇形という結論が下された。彼女には日常生活を続けられると告げた。
 彼女は、カイロプラクターのもとを訪れ、治療が開始された。その治療は、頸椎へのタフネス・テクニックと肩と頸部の筋へのトリガー・ポイント治療だった。最初の3回の治療では、彼女には疼痛が幾分残っていたが、その後の治療で徐々に症状が軽快していった。

議論
 頸椎の先天的奇形は稀で、ジェファーソン骨折に類似したものはより一層稀である。臨床症状が無い事で、多くの症例は気づかれないだろ。今回の症例のように、外傷後にレントゲン撮影が行われた後にのみ、奇形が発見されるだろう。
  先天的奇形の発生を理解するには、発生学が重要である。環椎は、胎生7週で形成される。環椎は、3つの骨化核(1つは前方、2つは外方にある)から発生する。前方の骨化核は環椎の前弓を形成する。2つの外方の骨化核は、胎生7週の間に背方へと成長していって、4ヶ月の間に後弓を形成する。前方の骨化核と2つの外方の骨化核の癒合は、生後6~7年の間に生じる。前弓の形成不全は、前方の骨化核の欠如として生じる事があり、前方の骨化核と共に外方の骨化核も癒合不全の場合もある。胎生6~7週の間に、2つの外方の骨化核は後方で癒合し、後弓を形成する。この癒合が生じないと、C1の後方での分裂が生じるだろう。
 頸椎骨折の約10%は、環椎骨折である。これらの骨折の約1/3は、ジェファーソン骨折である。これらは頭頂部への長軸方向の圧迫によって生じ、環椎弓部を通過する骨折となる。この骨折は、片側弓部の単骨折から4部位での骨折までの可能性があり、4部位のものは左右の前弓と後弓での骨折である。この4部位での骨折では環椎外側塊が外方へと移動して、しばしば不安定となる。この状態は、開口前後像によって視認できる。ジェファーソン骨折患者は、後頭骨痛、上部頸椎の疼痛と硬直、頭痛をしばしば訴える。腫脹が生じていたり、小片が脊柱管へと入り込むと神経学的徴候が生じるが、そうでない事が多い。正確には、今回の症例では、環椎の先天的奇形の有無に関わらず、この患者は転落後に前述の症状を経験したので、ジェファーソン骨折の疑いが示唆された。
 環椎の先天的奇形は、一般的に無症状だが、構造的な不安定性のために、以下の症状が生じる事がある:眩暈、頭痛、頸部痛、そして腕にピンや針が刺さったような、あるいは筋力の弱化といった神経学的症状である。これらの症状は、ジェファーソン骨折の際のものと非常に類似している。無症状の先天的奇形が頭部や頸部の外傷後に症候性となる可能性はある。
 環椎の前弓と後弓が癒合不全である先天的奇形は、レントゲン像でジェファーソン骨折と同様の外観を呈する事がある。これらの2つの状態には違いがあり、一方を他方と鑑別する事が可能だが、単純レントゲン像で常に明白になるとは限らない。しばしばCTスキャン画像や核磁気共鳴画像を入手する必要がある。今回の症例では、その両方が入手された。
 一般的に先天的奇形による環椎外側塊の外方への移動は1~2mmであり、ジェファーソン骨折では3mm以上である。7mm以上の外方への移動は横靭帯の損傷を示唆していて、上部頸椎複合体の不安定性が引き起こされる。不安定性は、2つの椎骨分節間での増大した可動性や剛性の欠如がみられる。不安定性は、屈曲-伸展画像で明らかになる事がある。診断では、生理学的可動性の過剰な部位での分節間の動きに注目する。頸椎の場合には、3.5mm以上、あるいは11°以上の分節間の動きは、不安定性だとみなされる。
 前弓のCTスキャンによって、弓部の障害が明らかになる事があるが、通常は今回の患者のように正中線上に見られる。先天的奇形の場合には辺縁が滑らかなのに対して、骨折では辺縁が鋭い。
 ジェファーソン骨折が疑われるならば、即座に正しい診断を下す事が非常に重要である。これによって不要なストレスやメディカル治療から患者を救う事ができ、可及的早期に正しい治療を開始する事ができる。環椎の形成不全の場合には、鎮痛剤や穏やかな手技治療(例:タフネス・テクニック)によって、しばしば十分な症状の軽減が得られる。ジェファーソン骨折の場合には、頸椎の外固定後3~4ヶ月間の頸椎牽引が必要である。この治療でも弓部が癒合しないのであれば、C1とC2の外科的癒合術が必要だろう。

結論
 患者に外傷歴があり、明確な診断が下せない、あるいはジェファーソン骨折の可能性を疑うのに十分な理由がある時には、更なる検査が必須だが、通常レントゲン撮影やCTスキャンが必要だろう。また外傷歴は、十分な配慮をして身体検査や神経学的検査を行わなければならない指標でもある。ジェファーソン骨折は無かったが、治療を開始する前に、不安定性を除外しなければならない。

謝意
 我々は、Rieke RegeilinkとEvert Vermeer の症例情報の提供とCharles Pheifle とJacob Kang の症例分析に謝意を表するものである。

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